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「私……私は……」 神崎 「その結果がこの有様だ。お前のところのメイドは、主が無事ならそれで良いと言う」 神崎 「だが、現実にはそれだけでは済まされない。人の上に立つつもりがあるなら、良く考えるんだな」 神崎 「自分の行動がどんな意味を持つのかを。周囲にどれほどの影響を及ぼすのかを。 それがわからないうちは、何度も同じミスを繰り返すぞ」 八重は蒼白になった顔を伏せてしまう。その耳を、槍の穂先のように神崎の声が貫いた。 神崎 「一人で全てを背負い込もうとするな。 さもないと、『瑞白家を背負う者の責任』を自己欺瞞の小道具に使うようになる」 ぎしぎしと骨が軋むかと思うほどに八重は拳を握り締める。 一番痛い箇所を、神崎は容赦く突いた。 悔しい。憎い。何も言い返せない自分が情けない。 感情が絵の具で汚れたパレットのようにぐちゃぐちゃにかき回される。 八重 「──っ!!」 もう、限界だった。八重は顔を俯けたまま走り去っていった。 廊下の角を曲がる八重の黒髪がふわりと舞い上がり、そして消える。 (本文より一部抜粋) |
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