その一部始終を見ていた神崎に、鏡子の溜め息が投げかけられた。
鏡子
「あんたねぇ……あれほど、あたしの可愛い生徒を苛めないでって言ったでしょうが」
神崎
「苛めた覚えはないぞ」
鏡子
「傍観者から言わせてもらいますとね、そうにしか見えないってのよ」
鏡子
「まったく、多感な女の子なんだから、もうちょっと言葉を選んであげられないの」
神崎
「それじゃあ、言いたいことの半分も伝わらねえだろ」
神崎は億劫そうに、ばりばりと短い髪を掻き毟った。
まあ、その鏡子にしたって何も口出しせずにやり取りを見守っていたのだから、
本気で言葉を選べなどと思っているわけではない。
心配そうに鏡子は眉をひそめて八重の消えた方を見やった。
──とはいえ、神崎の言葉は鏡子が八重に伝えたかったことでもある。
鏡子
「悪かったわね、憎まれ役を引き受けてもらっちゃって」
これには、眉を跳ね上げただけで神崎は何も言わなかった。
(本文より一部抜粋)
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