鏡子がやや呆れたような顔つきで言う。
鏡子
「八重だって、ぜんぜん贅肉ついてないじゃないの」
八重
「でも先生、気を抜くとすぐに体重増えちゃうんですよ。
秋だからって油断してるとまずいんですってば!」
俄然真剣みを増した表情で鏡子に食い下がる八重を見て、
志乃はついこの前まで巷で流行だと言う体操を、夜毎必死にやっていた姿を思い出した。
志乃
(何とかキャンプ……でしたっけ。美玖さんから借りたDVDは……)
無論、幼いころから異形の輩と立ち向かうために訓練を続けていた八重だ。
厳しい修練で身体はしっかりと引き締まっている。
別に新たに体操などしなくてもいいと志乃は思うのだが、それでも、
気になるのが年頃の娘の悩みなのだろう。
そんな八重に、鏡子は少し意地悪そうに笑いかける。
鏡子
「八重の場合、増えた体重が全部胸に行っちゃってるんじゃないの?」
八重
「……っ!!」
鏡子
「あ、もしかして図星? 最近の子は発育良いもんねぇ。
さっき、下着屋で見たときゃびっくりしたわ。サイズいくつだっけ、Fカップ?」
八重
「せ、先生……笑い事じゃないんですよ。肩凝るし、退魔行の時は邪魔になるし。
可愛いデザインのブラも無いし」
八重
「頑張ってダイエットしてもアンダーが落ちるだけで、カップ数は下がるどころか」
鏡子
「上がるの?」
八重は無言で頷く。そこに、クロウの冷ややかな声が響いた。
クロウ
「──贅沢な悩み」
(本文より一部抜粋)
|