奥の間は大きく湖に向かって開けており、薄い御簾の向こうには月に照らされた琵琶湖が、
微かに波音を立てている。
八重は、静かに足を踏み出す。
氷のように湖水は冷たい。だが、八重は眉一つ動かさずに、その水に身体を沈めた。
水を吸い込んだ肌襦袢が、八重の白い肌にぴったりと纏わりつく。
見事なまでに均整の取れた裸体が、僅かな月の光を反射して輝いた。
否……まるで内側から燐光を発しているかのようでもあった。
長い黒髪も、複雑にうねり装飾品のように八重の肢体を飾った。
肌を刺すような水の冷たさ、清廉さ。
清らかな水が、八重にこびりついてしまった穢れを押し流していく。
苦しみも、悩みも。全て、湖水に溶け込ませてしまえたら。
八重
(昔の人も、そう思ったのかしら……)
だから、この琵琶湖の見えるほとりに、瑞白の一族は居を構えたのだろうか。
(本文より一部抜粋)
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