それが、この化け物が最後に見た光景となった。
ぐしゃりと呆気なく頭部が踏み潰され、視界に幕が閉じられる。
二、三度痙攣を起こした後、化け物は二度と動かなくなった。それを確認した女性がようやく足をどける。
暗い色のワンピースに白いエプロンのその女性も、少女に負けず劣らずこの場にそぐわなかった。
だが、慣れた様子で自分が踏み潰した頭部の残骸を、エプロンのポケットから取り出した袋に詰め込む。
作業が済むと、その一部始終を見ている少女に女性はもう一度頭を下げる。
女性
「いささか出過ぎた真似をいたしましたが。お気をつけていただかねば困ります、
八重様。油断は万の敵よりも恐ろしいのでございますよ」
八重と呼ばれた少女は軽くため息をついた。そして、くるりと踵を返し音を立てずに歩き始める。
八重
「わかってるわ。その上で志乃に譲ってあげたの。とどめを刺すのが好きなのでしょう?」
八重も、そして志乃と呼ばれた女性も滑り込むように宵闇の中へと消えていった。
残されたのは、ミンチ肉となった化け物の残骸。
そして、異形の餌食となった哀れな被害者の、これもまた見る影も無い肉片の数々。
だが、これらを始末するのは八重や志乃の役割ではない。
再び、路地裏にはひんやりとした静けさが舞い戻った。
(本文より一部抜粋)
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