荊
「露骨に怪しい話ではあるけどね。
私もその辺りは織り込み済みで、この子の世話を引き受けることに承知したの」
荊
「いずれ、話してくれると思うから……ね?」
荊がクロウを庇うように話に割り込んでくる。
荊の台詞の裏にはクロウに対する信頼の色が見え隠れしていた。
その言葉を聞いてクロウは耳朶まで赤く染めて立ち上がる。
クロウ
「私、もう休む……!」
唐突に立ち上がり、カウンターの奥の扉に消えようとするクロウを、
八重と志乃は呆気に取られて眺めていた。
荊は穏やかな笑みを絶やさず、小さなその背中をふんわりと包み込むように抱きしめる。
まるで、仲の良い親子のように。
荊
「はいはい。それじゃ、お風呂が沸いてるからいつものように先に使ってて頂戴」
クロウ
「わかってるってば」
更に首筋まで赤く染め、荊の腕をそっと外すとクロウは慌てて扉の奥に消えていってしまった。
閉じられた木の扉の奥から、何やら物が落下したような音と小さな悲鳴が聞こえた。
(本文より一部抜粋)
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